しなのいえ日記
北海道建築視察研修
・・・・・長編なので、時間のあるときにお読みください。・・・・・
北海道の南幌町(なんぽろちょう)へ建築の視察研修に行ってきました。
建築家と地域工務店が豊かな暮らしを提案する分譲住宅があるというのです。
7月19日11:00に新千歳空港着。
気温は17℃。
・・・・ちょっと、寒い。
(下着がノースリーブであまりに寒く、MUJIにてTシャツ購入)
さて、南幌町は札幌市から車で35分(高速使用)程度東側にある町で、札幌市のベッドタウンとして発展し、人口は平成12年のピークで9946人でしたが、近年では若年層の流出により7000人台まで減少してしまったそうです。
ここに。
北海道と工務店と建築家が協力をして建売住宅をつくったのです!
分譲地名は「南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ」。
何が驚きか?
まず、行政が関わっていること。
普通、本州では民間の建売に行政が関わることはまずありません。
しかし、北海道では極寒の地で生き延びる術をみんなで考えないといけない、という土壌が出来ているのです。
だから、行政も協力的・・・というか行政が手を挙げてこのプロジェクトはスタートしたようです。
つぎに。
出来上がった建物は5棟ありますが、すべてが超高性能。
なんと、Ua=0.21~0.26!
しなのいえ工房の外壁付加断熱仕様(サッシはトリプル樹脂)では、概ねUa=0.30なので、恐るべき高性能。
さらに。
設計は5棟すべて違う建築家によるものです。
しかも、今回は
工務店×建築家 という式になります。
通常、建築家が介在する家づくりの場合、施主が建築家に仕事を依頼し、設計が決まったものを工務店がつくるという流れになります。
しかし今回は建売のため、施主が決まっていない。強いて言えば、建てる資金は工務店が調達するので、工務店が施主でしょうか。
なので、工務店と建築家が意見交換しながらつくり上げたということです。
これらのスキームがすごく魅力的で、長野でこんなことができたら、もっと「工務店って結構やるな!」と皆さんに感じていただけるのではないかと思いました。
さて、研修では5人の建築家にそれぞれが設計した住宅の設計コンセプトを12分という短時間でプレゼンしていただき、その後現地視察(1棟15分)でも建築家と工務店に案内していただくという濃密なものでした。
設計した建築家自らプレゼンしていただくのです。
なんとも贅沢ですね。
これだけでも、来た甲斐があったというものです。
普通なら一建物に一日かけてもいいくらいです。
ホントに。
時間が足りないことこの上ありませんでした。
そんななか、少しだけ住宅案内をしましょう。
「南幌まちなかの家」 アシスト企画+山本亜耕建築設計事務所
【コンセプト】
新しいことをしない
極力蓄積した方法を使う
でもつまらなくしない
新、北方型住宅2018
敷地条件の読み解きが素晴らしかったです。
そして15坪×2層でもここまで出来る!という間取り。
やはり、空間は体感しないと分かりません。
気持ちのいい仕掛けがたくさんありました。
階段は道産カバ合板。窓枠も造作家具も、これ。
とてもキレイでコスパ高そうでした。
「カスタマイズできる家」 晃和住宅+山之内建築研究所
【コンセプト】
「カスタマイズできる家」は、半完成品住宅。
住まい手が完成させる家。
地域に開く
トドマツ荒木の外壁。コンクリートブロック化粧積素地の内壁。トドマツ合板素地の天井。
ブロックモデュールより木造モデュールを優先し、経済性を追求
Ua=0.23
蓄熱の豊かな恵み
自然光をたっぷり浴びる
トドマツの香りに酔う
新鮮な空気を味わう
開放的な間取りに住む
コンクリートブロック造は北海道でポピュラーな住宅だったそうですが、昨今はほとんど造られていないそうです。しかし、高断熱住宅と熱容量が大きい素材の組み合わせは相性がいいので、ありだと思います。デザインも洗練されており、私にはとても新鮮でした。また、天井はトドマツ合板表しを仕上げとしており、コストダウンとシンプルなデザインを両立させていました。
「てまひまくらし」 武部建設+アトリエmomo
【コンセプト】
自分らしい生きかた暮らしかたに
寄り添うようなちょっとした
てまひまを
楽しみながらかけたくなる
くらしの提案
それはじっくりと時間をかけて
木の良さを体感できる
すまいのかたち
大工の手仕事の技を
惜しまないで丁寧につくられた
時がたてば経つほど
良くなっていく住まい
木質感あふれる、細やかな気配りが随所に感じられました。今回拝見した5棟の中では、私はいちばんしっくりきました。何でだろう、と断面を見てみると、低い天井と抜けのある吹き抜けをうまく組み合わせている。こんなところに共感したのだと思います。
外壁の素敵な色合いは木酢液ドブ付けだそうです。
「大きな屋根の小さな家」 キクザワ+エスエーデザインオフィス
【コンセプト】
南幌暮らしで実現できる様々なアクティビティの場
四季を通して快適に暮らせる空間
南幌の風景に馴染み、満喫できるカタチ
これらを実現するために・・・
敷地をゆるやかにおおう大きな屋根
南北方向への視線・動線の抜け
3つの小さなイエ型によるメリハリ
この家は外観が素晴らしい。平屋デザインをうまく使い、敷地に馴染んでるなあ、と思いました。間取りも私には絶対思いつかないゾーニングで、その空間に身をおくとこうなるんだ、という参考になりました。
「Inside-Out」 アクト工房+ATELIER O2
【コンセプト】
農業→囲う→ビニルハウス(薄い膜)→テントのようなルーズに囲う→キャンプ→グランピング→都会の脇で、お洒落に豊かに南幌を楽しむ→まるで室内に居ながら自然を楽しむ→室内と外が反転したような・・・→Inside-Out!
コンセプトが深い・・・。
仕上がりもコンセプトどおりになっていて、とても楽しい空間でした。
どの住宅もアイデアあふれる、デザインに優れた超高性能住宅です。
まさに、しなのいえ工房が目指しているベクトルです。
ちなみに、この建売住宅ですが、すべて3000万円程度(土地代500万程度込)で売れるもの、という条件付です。
なので、大半の家は30坪以下となっています。
この点も、弊社と同じ。
コンパクトだけど、高性能。そして、狭さを感じさせない工夫。
大いに参考になりました。
家の造り手として、やりたいこと、やらないことを明確にしていくと、ブランドのカラーが出来上がっていくのだと思います。
背筋がシャキッとした研修になりました。
研修後は、札幌で懇親会。
志の高い工務店仲間や建築家との交流ではより突っ込んだ意見交換がなされます。
建築家 山本亜耕さんの気さくで芸人張りのマシンガントークが印象的でした(笑)。
設計の奥深さとのギャップが・・・・。
壇上は工務店と建築家のみなさんです。
翌日は、札幌市内を歩き回りました。
旧北海道庁
旧札幌農学校図書館読書室・書庫
旧昆虫学及養蚕学教室
古河記念講堂
いずれも窓の大きさを揃える、シンメトリー(左右対称)なデザインにする、とこうなる。
この図式を体感することで、気持ちのいい外観になることが分かります。
その後、A・レーモンド設計の聖ミカエル教会を見学。
礼拝中だったので、中が見られず残念でしたが、丸太使いや低い軒が素敵でした。
ちなみにガラスの紋様は和紙を貼りつけてあるそうです。
帰りは札幌駅構内で、回転寿し。
回転寿しと侮るなかれ。なかなかのものでした。
今回受けたたくさんの刺激は、今後の設計の糧になるでしょう。